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2003年裏糸(東京<調布>=白馬<小谷村>)裏糸(3) 諏訪から安曇野まで

2003年5月25日(日)

 東京は調布から国道20号線を西に向かい、甲州を越え、信州に入った私たち二人のサイクリストは、中河原の交差点(三叉路)を左折して、20号の諏訪バイパスに入る。長野道の諏訪インターチェンジを過ぎ、バイパスは、ヨットハーバーのあたりで諏訪湖に突き当たる。湖岸通りを北上。諏訪の湖畔公園。間欠泉公園、そして、湖畔のレストランや旅館、ホテル、土産店など、湖岸どおりの観光地らしい雰囲気が私は好きだ。

 諏訪湖の湖岸どおりから、東岸の下諏訪のあたりで国道20号に戻ることもできたが、あえて長野県道185号岡谷下諏訪線を西に向かう。沿道のコンビニで、塩っぱいものが欲しくなり、カップラーメンかパスタか迷って結局パスタにする。チキン・ペペロンチーノ。どのみちコンビニの飯がうまいわけがない(失礼)とタカをくくっていたが、一口食べてみるとこれが美味しい。いままでこんなに美味しいパスタを食べたことがあっただろうか。

 空腹は最大のスパイス・・・とは言いえて妙である。 370円のコンビニのレンジで暖めなおしパスタでも、世の中にこんなにうまいものがあるかと感じるのだ。アルデンテだの粉がどうだの言う前におなかをすかせるのが一番だ。発汗で塩分が抜けているのか塩気のきついものが美味しく感じる。

 諏訪湖岸の道は、湖の照り返しがまぶしい。コンビニを出、下諏訪・岡谷の町を抜ける。まつもと空港近くの婦人服の工場に勤めていたころ、協力会社がこの下諏訪にあり仕事で通っていた。私は当時工場で生産管理を担当していた。原料の棚卸があわなくて、何度通ったことか。 あまりに在庫が合わなくて、悪夢に仕事のことがでてきたり、あわない在庫をどうしようかと考え事をしながらクルマを勤務先の工場の車庫入れしていて同僚のクルマにぶつけてしまい、近所の交番に行って事故処理をしてもらったこともあった。この工場に神戸から来訪する親会社の担当者を案内したりしたこともあった。夏に信州に出張してきた神戸本社の担当者の着ているポロシャツが、さりげなくジョルジオ・アルマーニだったり、そもそも神戸の育ちの良いお坊ちゃまが避暑に来ました(実際は仕事なんですがね)という風情が漂っており、私のような雑草育ちとはなんか違うなぁと思っていました(笑)。

 さて岡谷の町から長野県道185号楢川岡谷線で国道、塩尻峠に抜ける。峠に向かう県道は取っ付きの勾配がきつい。 助さんはリアメカ不調でローギア(登りで使う低速用のギア、クルマのマニュアルシフトで言ったら一速)が使えず、辛そうだ。 先が長いので「みどり湖」迂回ルートはやめ、国道20号をそのまま直進、でも昔よりだいぶ道が良くなり走りやすい。


 国道20号の塩尻峠を越える。下りは非常に気持ちが良い。バー下を持ってスピードを上げていく。さっきまでの不調が嘘のようである。そして、調布から延々と走ってきた国道20号線はここ塩尻で終点を迎える。

 塩尻は古来より、中山道、北国西街道(善光寺街道)、三州街道(伊那街道)の交差する分岐点で、そのためしばし合戦の場所になった。(長野県の歴史散歩編集委員会編 長野県の歴史散歩 山川出版社 2006年 p.136) 

 現代においても、ここ塩尻は、信州から甲州・江戸へ向かう国道20号、木曽・松本方面への国道19号、飯田に向かう国道153号、さらに長野自動車道が交差し、鉄道ではJR中央東線(篠ノ井線)と中央西線が分岐する交通の要衝であることには変わりはなかろう。

 また塩尻の奈良井川流域に広がる桔梗ヶ原(ききょうがはら)は、ブトウ、そしてワインの産地でもある。

「全国的に知られた産地、塩尻市桔梗ヶ原。老舗のワイナリーを中心に、小さなワイナリーが増えています。日本のワイン産地の先進地の一つとして、ナイアガラ、コンコードを中心に醸造する一方で、寒冷地では栽培が難しいとされていたメルローの栽培研究を重ね、県内に根付かせた先駆けです。その技術をもとにメルロー、シャルドネなどの欧州系の品種を植えてきました。近年特に温暖化によりワイン用ぶどうの生産に適した気候になってきています。」
(長野県観光部ホームページ 信州ワインバレー ワイナリーへ > 桔梗ケ原ワインバレーより)

 桔梗ヶ原には私と同姓の農園名を冠したワイナリーもある。遠い親戚なのかもしれない(笑)。冗談はさておき、信州産ワインは勝沼などの甲州産ワインには量的には及ばないかもしれないけれど、質的には決して劣っていないと思う。気温較差の大きさ(年較差、日較差とも)は内陸県・信州の気候の特徴であるが、とくに一日の中の気温差の大きさを示す日較差の大きさは際立っており、内陸気候ゆえの日照時間の長さとあいまって栽培果実の甘さ(糖度)をもたらすという。(市川正夫 やさしい長野県の教科書 地理 しなのき出版 2008年 pp.25-26)

 ワイン用のブドウは糖度は生食用より高く、酸度も必要で、果実そのものの香りよりもワインになったときの香りの高さが要求される。(松宮節郎・鴨居晴比古共著 ワイン入門 保育社 カラーブックス 1977年 p10)

 とすれば、塩尻・桔梗ケ原、松本・山辺や四賀、安曇野・三郷などのブドウ畑で収穫されるブドウがワインづくりに適していると言って差し支えないだろう。 (むろん小諸、東御などの東信、長野・須坂などの北信も気象条件的には同じであろう。)
甲州・勝沼あたりで見聞するように、地元で醸造されたワインがもっと地元の人々の日常生活の中に溶け込んでいけば、間違いなく信州のワイン文化もより高度なものになっていくだろう。

 たまには少々、お国自慢をさせて下さい(笑 あ・・お国自慢ばかりでした・・・? 笑)。

 閑話休題。 塩尻ICの手前で、私の判断(気まぐれともいう・・)でメインの国道19号を外れ、県道東山山麓(ひがしやまさんろく)線に入る。
 山麓線は、塩尻から松本までは下り基調・・・と思いこんでいた(注)が、それは大きな勘違いで実際にはかなりアップダウンがきつい。クルマで通ると交通量が少なく快適な道ではあるが、ここまで200km近くを自転車で走ってきた身体にはちょっとした上り下りがこたえるのだ。そのちょっとしたアップダウンで、思いのほか消耗してしまう。今回のツーリングにはこの手の判断ミス(大方が私の下した判断)が各所に発生している。

 松本の南の郊外、中山の先で県道を左折して薄川を渡り市街に入る。メインの道から行っても渋滞はたいしたことはない。しかし、これまた私の趣味?(自己満足?)で、地元民しか知らないような市街地の路地を通りぬけ、松本城の脇を抜け、新しくなった北松本駅の立体をくぐり、新橋で奈良井川を渡り、糸魚川街道から梓橋駅で左折し、三郷方面に向かい、安曇広域農道に出る。三郷のコンビニで大休止。16時20分、248km。

 18時に設定された栂池での宿の夕食にはどうやっても間に合いそうにない。その旨、宿に電話を入れる。打ち合わせをして、そもそものルート設定で、栂池を通過して、糸魚川まで行ってから引き返して栂池の宿に戻って宿泊というのはこの時点でナシになった。すでに時間も体力も限界に近づいている。しかし我々は今回、輪行袋(自転車を携行する際に使用する)を宅急便で宿に送ってしまっており、途中で電車にエスケープするという選択肢は最初から入っていないのである。自力で進むしかないのだ。

 

(注)落ち着いて考えるとクルマでしか通ったことがなかった。

 

三郷のセブンイレブンにて

安曇野から栂池へ